Life + Chemistry

化学の講義録+大学を楽しく面白い学びの場に変える試みの記録 (北里大学・一般教育部・野島 高彦)

明るい未来へ向けての一歩:卒業論文・修士論文・博士論文

2009年度も残すところあと3ヶ月を切りました.
Twitterの私のタイムラインには,卒業論文や修士論文や博士論文の完成を目指して追い込み実験をしている4年生や大学院生の声が流れています.
それと同時に,新しく卒業研究や大学院生活を始めようとしている学生の声も流れています.

2010年度が近づいています.

さて,私が卒業研究をはじめたのは,今からちょうど20年前のことでした.
そのときに一人暮らしを始めたので,私にとって1990年の春先は,大学に進学した1987年と同等かそれ以上に意味を持つ人生の節目になっています.
今でもその頃のことをよく思い出します.

ポケットに収まる携帯電話も,片手で持ち歩けるコンピュータも,家庭用インターネット回線もなかった1990年の春先.
子供の頃から未来は明るいものだと無条件に信じていた私には,21才になっていた1990年になっても,やはり未来が明るいものだと思えました.
一人暮らしを始めた開放感や,バブル景気の雰囲気も,私にそう感じさせていたのかもしれません.

それから20年かけて,私はその「未来」に来ました.
この20年間,いろいろな人や物が現れ,いろいろなできごとが起こりました.

世の中は悪くなった,と言う人は珍しくありません.
しかし私はこの20年間で世の中が総合的に悪くなったとは考えません.
良いことばかりではなかったのは確かです.
国内だけでも,経済状況とか,安全保障とか,技術力停滞とか,問題点はいくらでも挙げられます.

しかし,その一方で科学は着実に進展し,人間はこの世界のしくみを20年前よりも深く理解できるようになりました.
太陽以外にも惑星をもつ恒星が存在することがわかったとか,トップクオークがみつかったとか,ヒトのゲノムDNA塩基配列の解読作業が完了したとか,他にもいろいろ.

医療技術も進展し,癌は不治の病ではなくなりました.*1
未来の技術トップ3に必ず入っていた「テレビ電話」は,今ではカメラ付き携帯電話で実現しています.*2

そういうことを考えると,1990年と2010年とを比べた場合,2010年の方が良くなっていると,私には思えるのです.

残念なことに,人は「良いものごと」よりも「悪いものごと」の方に注意を向けがちだし,記憶に定着しやすいのは「悪いものごと」の方です.
「良いものごと」にはすぐに慣れてしまって,それがあってあたりまえだと感じるようになります.

でもここで,この20年間を振り返って,良いものも悪いものも片っ端から棚卸ししてみてみたら,
「案外この世の中は進歩しているじゃないか」
と実感できるのではないでしょうか.

そういうわけで今の私は,これから先の20年間で世の中は2010年の今よりも良くなると思うし,それゆえに希望も抱くことができます.
20年経って「2010年の今」を振り返ったとき,きっと「2030年の今も結構いい感じじゃないか」と思えることでしょう.

20年後には20年後の問題があるでしょう.
それでも,2010年の今よりもエキサイティングで面白くて楽しいものごとがたくさんある時代になっていると私は確信しています.

そういうわけで,卒業論文とか修士論文とか博士論文とかの仕上げに取り組んでいる皆様には,この山を越えることが明るい未来へ向けての一歩だと伝えたい今日この頃です.

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はじめて学ぶ化学

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*1:父を癌で亡くしましたが,それでも私は技術の進歩を疑いません.

*2:実現したけれども必要性がないから使わないだけです.